『エドガー・H・シャイン「マイ・ラーニング・ジャーニーズ」』「訳者あとがき」抜粋
四六判・360ページ
定価 本体1800円+税
エドガー H. シャイン 著
中村浩史 訳
2022/06/30 出版
ISBN9784382158184
産業能率大学出版部
これまでさまざまな先生が、シャイン先生の諸理論、考え方を日本に紹介してくださったおかげで、シャイン先生の考え方に私自身も触れることができました。私は、産業能率大学で、企業組織の皆様とより良い職場づくりや企業内人材育成をテーマに業務を遂行してきたため、シャイン先生の書籍から学ぶことも多くありました。
こうしたこともあって、私自身も日本の皆様に何らかのお役に立つのであればお役に立ちたいという想いを胸に、今回、担当させていただきました。
今回、私が翻訳させていただいたのは、尾川丈一先生(株式会社プロセス・コンサルテーション 米国支社長)のお陰であり、尾川先生がお導きくださったことで、シャイン先生の自叙伝を日本にご紹介するというご縁をいただきました。尾川先生は、稲葉元吉先生、金井壽宏先生と共に本書の中でもシャイン先生から紹介されている方です。尾川先生には、心より御礼申し上げます。
本書は、米国本国にてすでに書籍化されていたシャイン先生の自叙伝Becoming American(本書の第1部)に、米国で出版されていなかった自叙伝の中の一部(本書の第2部と第3部)を追加、組み合わせています。
シャイン先生ご本人からは写真を頂戴するなどやり取りさせていただきました。常に優しく、温かく接してくださいました。
(中略)
他にもご協力してくださった関係者の方々のお陰で、本書が日本の皆様にご紹介できるようになりました。ありがとうございました。
本書の中で、「組織心理学」を立ち上げたのは、シャイン先生ご本人以外にもう1人いることが述べられています。もう1人とは、バーナード・バス先生です。(中略)私が九州大学の大学院生だった頃に学ばせていただきました古川久敬先生(九州大学名誉教授)が、このニューヨーク州立大学のバス先生のもとでご研究されていたこともあり、古川先生からバス先生のご様子を伺ったことを思い出しておりました。
古川先生がバス先生のもとでご研究されていたこと、そして、今回シャイン先生の自叙伝に携わらせていただいたことで、「組織心理学」を立ち上げたお二人がとても近く感じられるとともに、学問の一分野の変遷を感じながら進めることができました。
また本書の中で、シャイン先生は、「組織心理学」のテキストを執筆するとともに、組織開発に関する短めの本を書き上げたと述べています。その組織開発の本を、今から半世紀前に日本にご紹介したのが、産業能率大学出版部でした。
『職場ぐるみ訓練の進め方 スタッフ、コンサルタントのための指針』(E・H・シェイン著・高橋達男訳、産業能率短期大学出版部、1972年)などです。
産業能率大学出版部は、シャイン先生をMITに招いたダグラス・マクレガー先生の書籍なども、当時、日本にご紹介しております。
『企業の人間的側面 統合と自己統制による経営』(ダグラス・マクレガー著・高橋達男訳、産業能率大学出版部、1970年)、『リーダーシップ』(ダグラス・マクレガー、ウォーレン・ベニス、エドガー・シャイン著・高橋達男訳、産業能率大学出版部、1967年・新版1974 年)(中略)などです。
産業能率大学の社会人教育部門では、こうした諸理論を理論としての扱いにとどめず、企業活動の実践の場で活用することを長年進めております。私自身もこの社会人教育部門に約20年前に入職してから今日まで、企業内人材育成のご支援を日常として、諸理論の活用を意識しながら過ごして参りました。その中では、実際にある現実の声に耳を傾けていくことの重要性とその価値を感じてきたようにも思います。本書で書かれているように、ご支援する立場だからこそ得られる情報、企業活動の実情を知る機会がありました。実際のご支援を通じて新たな発見や視点が多く得られました。
そうした意味では、理論的知見に触れる一方で、実際の企業活動のご支援をさせていただき、理論と実践活用と行き来していくことが、物事をより深く検討し、理解していくことにつながるものだと実感しております。(中略)
これは別の角度から捉えると、大学に属する立場として、企業活動に関わることが授業や研究にどのように生かされるのか、そしてその授業や研究がまた、企業活動に携わることにどのように生かされるのかとも関連してきます。本書でシャイン先生はこの点に関することにも触れてらっしゃいます。
私自身も、大学という機関に属しながら多くの企業にお伺いして人材育成のご支援をする一方で、大学内で教鞭を執ることもあります。こうした諸活動が及ぼし合う影響を把握することは重要なことのように思っております。(中略)
本書が、皆様の「人生を歩むということ」、「教え学ぶということ」、「研究するということ」などを含め、何らかの活動の一助となりますと幸いです。
2022年春 中村 浩史