繁体字版『組織文化とリーダーシップ』出版社に聞く、台湾と日本の組織文化をめぐる状況
白桃書房営業部の寺島は、去る2月、台北国際ブックフェアに合わせて、版権セールスで台北を訪問しました。その際、『組織文化とリーダーシップ』繁体字版(*1)の『組織文化與領導』を出版されている五南図書出版のご担当者、経営編集部長 張毓芬様、版権係長 何晨瑋様にお会いし、その出版の経緯や売行き、また台湾人の組織文化の考え方などをおうかがいできましたのでご紹介します。
五南図書出版は創業から50年近く経ち、文学から理工書まで広く学術書・専門書を出版されています。なお、グループ会社の一般書部門、書泉出版社では『人を助けるとはどういうことか』(原題:HELPING)の繁体字版も出されています。
白桃書房 寺島:御社で刊行された繁体字版『組織文化とリーダーシップ』は現在第2版ですね。その第1版・第2版の累計部数、また原著の版を教えてください。
五南 何:繁体字版第2版は原著第3版の翻訳で、2010年に刊行しました。2刷で累計1400部となっています。
五南 張:繁体字版第1版は2007年刊で7刷まで行って、多分6000部ぐらいになったと思います。オリジナルの第2版の翻訳です。
寺島:両方の版を足すと、累計7400部ということですね、それはすごい! 台湾の人口は2300万ですから。
私どものは、第4版の翻訳で2012年刊ではありますが、2刷で累計2000部です。日本の人口は1億2000万なんですけどね…。
どうして台湾ではそのように売れているのですか?
何:大学で教科書として使われているんですよ。
張:ある先生に、この本は組織文化を学ぶ上でのマスターピースと教えていただき、私どもの第1版を出すことにしたんです。教科書として採用いただく大学が多く、それが何年も続いています。
寺島:日本では、組織文化について、大学ではしっかりと教えていないようで、『組織文化とリーダーシップ』、また、それをビジネス寄りにした『企業文化』も含め、あまり教科書採用はないんです。
台湾では、社会的・経済的に、組織文化について学ぶ必然性は高いのでしょうか?
張:台湾は人口が少ない分、日本よりも前から、広く海外でのビジネス、また中国本土とのビジネスに多くの方が関わっているからではないでしょうか。
さらに、大学の経営系の先生はたいてい海外留学して学位を取得しています。その際に組織文化の違いに直面し、帰国し先生となった後、組織文化は教える必要がある、と思うのかもしれません。
寺島:なるほど。日本も、国外へのビジネス展開は、中小企業にも大きな課題となってきていますから、今後、組織文化を学ぶニーズは高まってくる可能性がありますね。
あと、私たちには終身雇用制度がだいぶ揺らいできているとはいえ前提として残っているせいか、あまり強い主張をせず和に重点を置くことが美徳とされているところもあります。それで組織文化をめぐる深刻な摩擦や衝突が少なく、それに気づく機会も少なかったという面もあるのかも知れません。
張:台湾では、会社にも従業員にも終身雇用という意識はない上、会社に限らずプライベートでも私たちははっきりと物を言うので、以心伝心を大事にする日本の組織文化は興味深いです。
寺島:シャープの件などを見るにつけ、段々と元気がなくなってきている日本の電機産業と、活力にあふれる台湾の電機産業と、組織文化の違いがこのコントラストを生み出したように感じられます…。
何:でも、日本の文化は台湾でとても高く評価されているじゃないですか。このブックフェアにも和書の翻訳書がたくさん並んでいますし、日本の観光ガイドもたくさんありますよ。
寺島:元気づけていただきありがとうございます(笑)。こちらでの版権営業を頑張らなくてはいけませんね。今後ともよろしくお願いします。
左から右に、張様、寺島、何様
*1:繁体字は台湾・香港・マカオなど本土以外で使われている漢字で、日本の漢字の旧字体に似ています。中国本土では、日本の新字体よりさらに簡略化された簡体字を使っています。
(2016年2月19日 台北ブックフェア会場にて)